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頭頂連合野と身体情報

​文責:井内勲(岡崎共立病院)

 

​頭頂連合野と身体情報

著者:内藤栄一,雨宮 薫,守田知代

雑誌:BRAIN and NERVE 68(11):1313−1320,2016

【要約】

ヒトが自己の身体を認識する際の重要な感覚として,視覚と体性感覚をあげることができる。そのうち体性感覚は,自己の皮膚,筋肉,関節などに存在するさまざまな感覚受容器から惹起される感覚であり,常に自己の身体に由来する。よって自己の身体を認識するために本質的で必要不可欠な感覚である。体性感覚のうち,筋肉や関節に存在する感覚受容器に由来する固有受容器感覚(proprioception)はヒトの身体図式(body schema)や身体像(body image)の形成に貢献する。本論では,サルの細胞電気生理学的知見と合わせて,ヒトのニューロイメージングの知見を紹介し,固有受容感覚を基盤としてヒトが意識的に体験出来る,自己身体像の錯覚現象を通して,主に下頭頂葉,後頭頂葉及び頭頂感覚連合野の機能テーマに絞って解説する。

<四肢の運動錯覚現象>

・四肢の動き(方向と速度)の知覚に大きく貢献する筋紡錘に適切な周波数(80Hz付近)の振動刺激を付与することで運動錯覚(実際には動いていなく,自ら動かそうと意図していないにもかかわらず,運動が起こっているかのような明瞭な運動感覚の意識的体験)を惹起できる。

・この運動錯覚という意識的体験は意識に上がる脳内身体表現を「身体像」と定義するので

あれば,狭義の自己身体像の変化といってよいであろう。

・運動錯覚中にヒトは運動を意識的体験には,運動領野と共に運動錯覚中に活動する右半球下頭頂葉の関与が推測される

<右半球下頭頂葉>

・右半球下頭頂葉や右下前頭回は運動錯覚のような固有受容感覚に基づいた自己身体運動

の認知,自己身体像の意識的体験に深く関与するだけでなく,他者顔と区別して自己顔を同定する場合にも活動することがわかった。しかも,運動錯覚と自己顔同定は共有した神経基盤を持っている。

・右半球に側性化した下頭頂葉などの機能が他者と区別できる自己の同定や自己意識形成の基盤となっていると推測できる。

<左半球下頭頂葉>

・単関節運動錯覚時には顕著な活動がみられない。

・手-物体運動錯覚(手の運動感覚情報と手が物体に接触している触覚情報とを統合した結果生じる錯覚)には,顕著な活動が認められる。

・手-物体運動錯覚が起こるときは,脳が手の運動表象と物体の表象とを統合して物体を身体の延長として認識していると考えられる。(失行症の障害の原因)

・手-物体運動錯覚は左半球下頭頂葉に側性化した機能で,錯覚中の左下頭頂葉の活動は,頭頂間溝(物体の形状)の活動と機能的結合を強化して出現する。

<後頭頂葉(7A野)>

・ヒトが視覚情報と固有受容器感覚情報に基づき自己の四肢の位置変化や動きを認識する場合には「視覚の優位性」が生じ,視覚情報に重きを置いた感覚情報処理をする。この時の視覚優位な感覚情報の統合に重要な役割を果たすのが,両側の後頭頂葉である。

<頭頂感覚連合野(2野)>

・運動錯覚を体験している手がほかの自己の身体部位に接触している場合にのみ活動が観察される(手が接触していない手首の単関節運動錯覚や,手-物体運動錯覚では活動しない。)

・異なる身体部位間の統合と,触覚と固有受容器(運動)感覚という2つの体性感覚サブモダリティ間の統合に関わる考える

・身体各部から寄せられる体性感覚情報を統合し,自己身体像の生成に貢献すると推定できる。

ヒトの頭頂連合野は,実に複雑で多様な細胞構築学的領野から構成せれており,同時にこの大脳皮質にはさまざまな機能的領野が存在することがわかってきている。これらの領野はそれぞれ解剖学的および機能的に結合する前頭領野と連携して特有の役割を果たしながら,身体情報処理や運動制御を多面的に支えている。

【コメント】

動作や姿勢を獲得,制御する際にさまざまな感覚情報をもとに自身の身体情報との整合性をとりながら学習していくと思います。認知神経リハビリテーションのみならず訓練を構築するうえで,患者がどのような身体像を持っているのかは可能な限りしっかりと把握する必要があります。テーマである頭頂連合野は,先におこなわれたスペシャルセミナーでも講義の中で重要な視点として取り上げられていました。とても難しいですが今一度,整理する必要を感じました。

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