top of page

精神的ストレスと注意要求のある身体運動が侵害受容情報処理過程に及ぼす影響

~経皮電気刺激による侵害受容関連電位を用いた研究~

掲載雑誌:作業療法第37巻 第6号 P646~653,2018

著者:高橋弘樹(聖マリア病院リハビリテーション室)他

 

要旨

痛み過程は,体性感覚経路のみならず,前帯状回などの認知・情動に関わる脳部位の関与も示されている.侵害受容関連電位において,潜時250~300msec付近に出現する後期陽性成分(P2成分)は,感覚だけでなく認知・情動を含む情報処理過程を反映するとされている.本研究では健康成人20名を対象に,数列逆唱課題を用いた精神的ストレスと注意要求のある身体運動が,侵害受容関連電位のP2成分に与える影響を調べた.その結果,精神的ストレス後はP2成分の振幅が増大し,身体運動後は減少した.精神的ストレスは,前帯状回などを興奮させることで,侵害受容情報処理過程の過程を強化させ,身体運動はこれを低下させる可能性が考えられた.

 

コメント

認知神経リハビリテーション(以下ETC)において疼痛へのアプローチでは認知過程や情動に対しても評価を行い,課題を提供していく.論文内の精神的ストレスとは「6桁の数列逆唱課題」を5分間行うことである.ETCでは患者の認知過程を探ろうと聞き出すが,この論文から考えられることとして,疼痛のある患者に対する自分の問いが難しいことにより、疼痛を引き出してしまう可能性があるのではと思われる.また,相手の嫌がることをやらそうとするだけで疼痛を引き出してしまう可能性もある.

一方,論文内での身体運動とは島田1)が開発したステップと視覚認知を同時に要求される「足踏みラダー」という課題を採用し実験されていた.足踏みの運動と歩数呼称を5分間行い,更には手拍子をする,ステップを変化させるなど徐々に難易度を上げて実験した結果、精神的ストレス課題より侵害受容情報処理過程を低下させたという結果が出た.論文の考察では5分間の全身運動と予測,遂行,修正しなければならない注意要求のある身体運動である為,背側前頭頂皮質を中心としたexecutive-control networkを刺激することで身体運動による疼痛抑制効果が強化されsalience networkにおける侵害受容情報処理の活動を低下させた可能性があると述べている.課題を施行する上で課題をどう遂行できるかを患者が考えることができれば疼痛が軽減につながるのではないかと感じた.このような知見を読み,疼痛患者への介入する糸口をつかんでいきたい.

 

1) 島田裕之:新開発!国立長寿研の4色あしぶみラダー‐認知症予防のための脳活性化運動コグニサイズ入門‐.小学館,2014

文責:永原巧

bottom of page