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運動主体感に着目したリハビリへのモデルベースドアプローチ

ロボット学会誌 Vol.35 No.7 2017

著者:矢野史朗 近藤敏之 前田貴記 

【抄録】

運動主体感とは、自己が営為の作用主体であるという感覚である。身体や環境に物理的変化を引き起こしたのは自分自身であるという主観的感覚、と定義される。運動主体感は様々な分野で注目されている。Human Computer interaction(HCI)の分野、Brain Computer Interface(BCI)の分野では定量的に運動主体感を計測し、設計に反映する研究が行われている。また、精神医学分野、発達心理学分野、神経科学、行動主義心理学、法律学分野などにおいても研究が試みられている。

運動主体感の成立には主に、2種類の考え方がある。一つは、ヒトは自身の運動に先立って運動結果を予測しており,実際の結果と予測が一致した際に運動主体感を得るというコンパレーターモデル、もう一つは、運動後にその運動を行ったか否かについて改めて振り返って判断するという見かけの心的因果モデルとよばれる。また、運動前後といったタイミングにかかわらず、記憶や経験など内部に保有している情報と外部から遂一到達する情報を統合して判断すると考えであるcue integrationモデルも提案されている。

コンパレーターモデルでは予測誤差がゼロの時、運動主体感が発生すると考える。しかし、実験的には予測誤差が微少であれば運動主体感に大きな影響を与えないことが分かっている。ベイズ推定には介入できる部分が四つある。統計モデル、事前分布、逆温度、真の分布である。統計モデルは体験型訓練や座学によって本人の学習により精緻化されると考えられるので把握するだけで有効と考えられる。事前分布のへの介入は自分の経験に固執し過ぎると学習が遅くなる。事前分布を広げるような介入方法も有効と思われる。逆温度への介入は予測が成功した時により喜ぶようにする方法により,学習を速められると言える。真の分布への介入方法としては、目標到達運動課題などを用いて行為者の目標を指定し、その目標が達成できたかのように情報指示するという方法がある。

【コメント】

運動主体感は,事前に予測していた運動の結果が,実際の結果と一致することで発生すると考えられ予測と結果の不一致を予測誤差と呼び誤差がゼロの時に運動主体感が発生すると言われている。アノーキンの示した条件反射の生理学的構築理論は人間の学習がどのような仕組みで獲得されるかをモデル化しているが、この理論は、意図と結果が合致する条件を求心性信号の回帰が行為の受容器において合致することとしたところに特徴がある。

人間の学習において、予測と結果の一致することで発生する運動主体感が大きく関わると考えられる。

(文責   介護老人保健施設かにえ   尾﨑正典)

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