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もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」

R・ダグラス・フールズ著

小西史朗監訳 小松佳代子訳

講談社

 本書は「グリア細胞」について書かれており、「もうひとつの脳」と呼んでいる。

 1990年、コンピューター画面の周囲に群がっていた科学者たちは、情報が奇妙な脳細胞を通過しているところを目撃した。情報はニューロンを迂回して、電気的インパルスを使用せずにやり取りされていた。ニューロンは脳内の全細胞のわずか15パーセントでしかない。残りの脳細胞(グリア細胞)は、電気活動を行うニューロンの間を埋める梱包材にすぎないと、これまで見過ごされてきた。この奇妙な脳細胞がお互いに更新していると知って科学者たちは今、大きな衝撃を受けている。この細胞が神経回路を流れる電気活動を感知できるだけでなく、その活動を制御さえできることが判明し、脳に関する科学者の理解は根底から揺らいでいる。本文の中で、天才物理学者のアルベルト・アインシュタインの脳について興味深く書かれてある。天才の脳のニューロンはごく普通の人の脳のニューロンと変わりなく大脳皮質にあるニューロンの数もほとんど変わりはなかった。しかし、一つだけ違いがあった。ニューロンではない細胞の数が群を抜いて多かった。それがグリア細胞である。最も顕著であったのは優位半球の頭頂葉皮質であった。何十年もの間、グリア細胞は精神を気泡で包む梱包材のようなもので、物理的にさらにおそらくは栄養学的にニューロンを支える接合組織にすぎないと見なされてきたが、アインシュタインの脳には、人並み以上のグリア細胞があった。アインシュタインの脳と平均的な脳との間に差異は、この非神経細胞に関するものだけであった。神経膠細胞(ニューログリア)という名前はラテン語で「神経細胞の接着剤」を意味する。

 本文では、脳腫瘍、脳と脊髄損傷、感染、メンタルヘルス、神経変性疾患、痛み、薬物依存、母親と子供、老化、記憶、思考、意識などがどのようにグリア細胞と関係があるかを述べている。これまで電気で作動するニューロンに神経科学者は焦点を絞り、グリア細胞というニューロンより数や多様性の点で勝っている細胞群を事実上無視してきた。

グリア細胞の多様な働きは、胎児脳を築き上げ、伸び出した軸索を結合点まで導いて神経系を配線し、結合が損傷すれば、それを修復する。軸索を駆け抜けるインパルスを感知し、シナプスでの会話に耳を傾け、シナプスでの交信にニューロンが使用している信号を調節し、エネルギー源と神経伝達物質の基質をニューロンに提供する。さらに、広い領域のシナプスやニューロンを機能集団と結びつけて、ニューロンから受け取った情報をグリア独自のネットワークを通じて統合し、伝播する。神経毒や神経保護因子を放出し、シナプスを接続あるいは切断し、シナプス間隙を出入りする。新たなニューロンを産出し、血管系や免疫系とも交信する。ニューロンの通信回線を絶縁し、そこを通るインパルスの速度を調節する。

 グリア細胞は高次機能、認知機能、可塑性、学習、老化、男女差、種類など、どのような関係性があるのか、まだまだ、解明されていない。グリア細胞はまさに、ニューロンをつなぐ糊のような細胞である。治療においてニューロンレベルの脳の可塑性だけではなく、グリア細胞も考慮した治療を考えて行かなければ、的確な治療に結びつかない。アインシュタインが時代を超えて教えてくれているような気がする。

文責 尾張温泉かにえ病院 尾﨑正典

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