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歩行自己効力感尺度「WES(Walk Efficacy Scale)」の開発  ─転倒恐怖感を簡便に測定する方法を目指して─

矢口 拓宇

Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)

要約

【目的】 転倒恐怖感を測定する方法にTinettiらの開発したFall Efficacy Scale(以下FES)がある。FESは10項目の日常生活活動を転倒なく行う自信があるかを問うものであり、対象者が日常生活のどの場面で転倒恐怖を感じるのかを知るのに有効な手段として使用されている、しかし、実際には行わない活動については想像で答えを要求するため、入院や入所中の方、家事を行わない男性などには使いにくい場面もある。また、10項目の質問項目は時間もかかるという欠点がある。そこで、より簡便でほぼ誰にでも使用可能な評価方法として歩行自己効力感尺度Walk Efficacy Scale(以下WES)を開発した。

【方法】 対象は当施設併設の通所リハビリテーション利用者86名(平均年齢77.5±9.5、男性31名、女性55名)とした。認知症はあっても軽度で、意思疎通が問題ない者であった。WESとFESは質問紙にて配布し回答を得た。WESは「屋内を転倒なく歩く自信があるか」と「屋外を転倒なく歩く自信があるか」の2項目からなり、それぞれ「とても自信がある」を4点、「まあまあ自信がある」3点、「あまり自信がない」を2点、「全く自信がない」を1点として2項目の合計点を8点満点で算出した。FESは合計点を40点満点で算出した。また、86名中37名(平均年齢76.9±9.4、男性13名、女性24名、身長154.2±9.9、体重57.4±9.6)について身体機能評価とアンケートを行った。身体機能評価は握力、30秒間立ち上がりテスト(以下CS-30)、Functional Reach Test(以下FRT)、5m歩行時間及び歩数を測定した。また、質問紙にて過去3ヶ月間の転倒経験及び精神的健康感の尺度としてWHO5について回答を求めた。過去3ヶ月間の転倒経験から対象者を転倒群と非転倒群に分け、上記と同様の項目について対応のないT検定を行った。有意水準は5%未満とした。

【結果】 統計学的処理の結果、WESとFESに有意な正の相関が認められた(R=0.72)。その他にWESと相関が認められたのは、CS-30(R=0.35)、FRT(R=0.57)、5m歩行(R=-0.36)、歩数(R=-0.35)、要介護度(R=-0.42)WHO5(R=0.37)であった。FESと各測定項目との相関は認められなかった。転倒群は非転倒群に比べ5m歩行時間において有意に高い値であったが、その他の項目には有意差は認められなかった。

【考察】 本研究において新たに開発されたWESと従来から用いられてきたFESの結果に有意な中等度の相関が認められたことから、WES結果が転倒恐怖感を示す尺度として用いることができると考えられる。研究により、歩行に特化して質問するWESを用いることで、歩行中の転倒恐怖感と身体機能に関連があるという可能性が見出された。これは、バランスや歩行能力の改善を目的とした理学療法が歩行という課題における転倒恐怖感の改善につながるかもしれないという新たな可能性も感じられる結果となった。

 

コメント

この発表でもあるように、転倒恐怖心を測定するための評価にFESがあるが地域高齢者を対象としている報告が多く質問の内容が、電話に応じられるか?家事ができるか?横断歩道を渡れるか?などADLの高いレベルでの質問が多い。今回作成されたこの評価では簡易的で新たな評価法を提案したものであり参考となった。しかし、この評価は歩行時のみの転倒の恐怖心に限定されており、歩行ができないものでも立位、座位からの転倒の可能性や施設利用者、入院患者には歩行以外での場面での転倒も予測されるため、転倒恐怖心の評価方法にはまだまだ検討する余地があると考える。

(​文責:岩谷竜樹)

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