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手の治癒力

山口創  草思社文庫

私たちが、患者や利用者へのリハビリテーションサービスを提供するときに「手」を使わないことはまずありません。「手当てをする」という言葉があるように、身体に手を当て、撫でさすり、皮膚を手で刺激することで感覚を覚醒させ、「体」を「心」へとつなげ、「頭」を「心」につなげようと無意識のうちにしています。「手当て」とは手を使って全体のつながりを回復させようとする行為です。どのような精密機械でも、初めは「手」によって作製していきます。それだけ「手」の巧緻性は高く優れており、緻密です。

「手」の治療は、臨床経験上、繊細でとても難解です。書店でこの「手の治癒力」という本を見つけ題名につられ、「手」がどのような治癒力があるのか知り、何か臨床に活かせるのではないかと思い購入しました。

本書の中で、皮膚と脳の発生の過程が述べられています。

「受精卵が卵割を繰り返して胞胚期といわれる時期に外胚葉、中胚葉、内胚葉に分かれ皮膚と脳は同じ外胚葉に由来する。脳がない生物は現在でも非常に多いが、皮膚がない生物はいない。皮膚は脳ができるはるか以前に、生物の発生時期にでき,脳に匹敵する情報処理機能を備えていた。」

「英国の神経心理学者、グレグ・エシックたちは、3種類の材質(メッシュ、綿、ベルベット)を機械に装着し,対象者の顔と前腕に3つの異なる速さ(1秒に50㎝、1秒に5㎝、1秒に0.5㎝)で撫でたときに、どの程度「気持ちいい」と感じるか評価し、2つのことが実験によりわかりました。第1は全体として顔と前腕を比べてみると顔の方が気持ちよく感じ,第2は1秒に5㎝ほどの速度で撫でたときに最も気持ちよくなると。」

「また、1秒に5㎝の速度で触れる時に最も反応する神経「C触覚線維」と名づけられており、脳幹や扁桃体、自律神経や視床下部、島皮質、眼窩前頭皮質など広い範囲に届くとのことです。」速度により神経の反応が違い、1秒に5㎝程度の速度が心地よく、脳への反応がよいことを学びましたので、臨床場面でこの知見を利用し、1秒5㎝程度の速度を意識して行くことが重要であると理解できます。また、皮膚感覚を鍛えるためには「今ここ」に集中することが重要であると述べられており、その方法を、目をつむり、ただその感触を味わうことが大切であると述べています。

 接触課題において動かす速度をどのくらいにすれば良いのか、ヒントを得ることができました。早速、臨床で検証し、実際どうなのかを確認していこうと思います。

(文責:介護老人保健施設かにえ 尾﨑正典)

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